レポート
3年後期・建築設計Ⅳ(都市開発系)レポート
by 泉山塁威

建築学科3年後期に設置されている、選択科目・「建築設計Ⅳ」では、「設計系課題」、「都市開発系課題」の2つの種類の課題があります。

2022年度から「都市開発系課題」が「建築設計Ⅳ」の中に新設されました。こちらは、2022年度に終了した「企画経営コース」の設置科目「不動産開発プロジェクト」が元で、不動産や都市開発の教育を行うのは、全国的にも稀有なため、「建築設計Ⅳ」の中に継承したものです。将来は、ゼネコンや組織設計事務所の都市開発部門、不動産デベロッパーなど「都市開発系」の進路に進む建築学生としては貴重な課題となっています。

そのような経緯もあって、建築設計Ⅳ(都市開発系)とはどんな科目なのか、本レポートで紹介したいと思います。

テーマは「人々に使われる複合都市開発プロジェクトとは」

都市開発プロジェクトは、容積率も大きく、建物の高さもある大規模建築です。オフィス、ホテル、集合住宅などをベースに、低層階を商業施設や公共的な施設とする複合都市開発プロジェクトとするのが通例です。しかし、近年では、「同じような街並み」への開発の批判や、コロナ禍後の都心部のオフィスや商業のあり方の変化から、容積を増して高いビルを建てれば良いわけではなく、街並みへの配慮や人を惹きつける開発企画が求められます。これらの背景から、課題のテーマを「人々に使われる複合都市開発プロジェクトとは」としています。

2022年度のスタジオワークス(建築設計優秀作品集)掲載作品はこちら

▶︎菅原悠希・中村佳乃・松田晃太「神保町のしんか」   ▶︎前田洋伯・久志木ひま梨・柳澤尋樹・米田康平「Ochanomizu_X_STELLA」

対象地は大学周辺のお茶の水・神田地域|グループ設計でリサーチから提案まで

この課題の特徴は大きく3つあります。

1つ目は、対象地です。対象地は、大学周辺のお茶の水、神田地域という都心部の立地において、5地区を仮想の開発候補として出題し、その中から1か所を選択します。調査、リサーチを経て、ひとつを選択するので、リサーチの根拠を持って、ひとつの対象地が開発のポテンシャルがある(逆に、他の4つは開発候補地として妥当ではない)と説得力のあるプレゼンテーションが求められます。

2つ目は、開発用地の選定と開発条件の整理です。これまでの建築設計では、敷地を更地の状態で、課題書に建蔽率、容積率などの条件が指定されて、建築設計に取り組みました。しかし、建築設計Ⅳ(都市開発系)では、開発用地を一街区にまとめるために既存の道路や民地の権利関係の整理、開発条件や導入すべき機能の整理(従来の建築設計の課題書の記載条件)をどのような方法で行うのかも問われます。これがまさに、建築設計段階前の都市開発職が行う開発条件の整理なのです。これを初めて課題として取り組むことも挑戦の一つでしょう。

3つ目は、グループ設計です。都市開発プロジェクトの規模は敷地面積が5000ー10000㎡程度になります。さらに建築設計以外のリサーチや提案も多くなること。さらには都市開発プロジェクトは設計者だけでなく、多くの主体の意見を調整して取り組む要素がより多くなるため、グループ設計としています。これまでの建築設計は一人で取り組み、指導教員と1:1のエスキスで取り組んできました。今回は2−4人のグループでひとつの課題のリサーチから提案まで取り組みます。意見のズレや同じ目標の共有、一つのアウトプット(成果物)に取り組むというグループ設計としての調整があります。2023年度は最終的に25名の学生が6グループで提案しました。

授業の進め方と成果物

授業の進め方は、最初の1−2回は、ガイダンスの後、個人で敷地調査・フィールドワークの結果などをまとめ、グループ編成を行います。グループ編成後は、グループごとに毎週のリサーチや提案の成果物を発表し、指導教員から講評や指導を受けます。時には、指導教員がレクチャーなどを行い、必要な情報や技術のインプットを行います。レクチャーはお茶の水の歴史、都市再生のトレンド、超高層ビルの建築計画、建築構造などです。後半の建築設計に入るフェーズではグループ作業中に、テーブルエスキスを行い対話型で指導を行うこともあります。

中間発表会、最終発表会、ゲストを交えたゲスト講評会を行い、節目で成果物の確認を行います。成果物は、A3版の提案書(枚数自由)と、A1版3枚のプレゼンテーションボートとしています。

教員は、宇於﨑勝也教授、泉山塁威准教授の専任教員のほか、非常勤講師として、奥茂謙仁氏(市浦ハウジング&プランニング)の3名が担当します。

教員によるレクチャーの様子(宇於﨑教授)

ゲスト講評会

最終回となるゲスト講評会は、指導の3名の教員のほかに、ゲストを招いて講評を行います。

2023年度はゲストとして、千代田区環境まちづくり部のお二人をお招きしました。自治体の立場からの講評として、開発プロジェクトやまちづくりの可能性などについてのコメントや質問が飛び交う。おそらく初めての経験ではないでしょうか。

学生たちは、これまでの集大成として、限られた時間の中で最大限の発表と質疑応答に応えていきます。

実はゲストの一人は本学のOBでした。少し優しい?講評もあったかもしれません。

成果物のA1版のプレゼンテーションボードは表現はそれぞれですが、3Dパース、ダイアグラム、平面図、立面図、断面図などから、構想する「人々に使われる複合開発プロジェクト」を発表します。開発対象地によって、立地や求められるものはことなり、さらには時代背景や社会情勢などを組み合わせ、次代を担う都市開発プロジェクトを構想します。最近のトレンドとして、コロナ対応のリモートワークやIoT、ロボット、Eスポーツなどのテクノロジーと街の個性を汲み取った提案が見られています。

グループといえど、メンバーとなる学生全員が発表します。自身の発表担当を決め、これまでの議論や提案の成果をわかりやすく、堂々と発表していきます。

最近では、成果物の表現として、3Dパースが多くなっていますが、模型制作をする班も見られました。これまでと違い、建築も大規模になるので、模型制作も一苦労です。それでも挑戦する学生たちは立派です。自分たちの構想する開発プロジェクトを形にしていきます。

最後は、優秀賞(スタジオワークス掲載)2点、ゲスト賞を講師、ゲストと相談の上、決定いたしました。

賞の有無は結果としてありますが、6つの提案はそれぞれ特徴もあり、甲乙つけ難いレベルの高い成果物となりました。都市開発プロジェクトは、建築デザインに力点を置いた建築設計に比べて、リサーチや地域の文脈を読み取る力、法規、都市計画などの諸条件の設定、都市開発の企画構想、それらの大規模建築をまとめていく総合力が問われます。

「人々に使われる複合都市開発プロジェクトとは」というテーマは簡単ではないと思います。今回のそれぞれの課題、提案を通じて、学生が「人々に使われる複合都市開発プロジェクト」を考えるきっかけになったことでしょう。学生が今後、それぞれの挑戦の中で、「人々に使われる複合都市開発プロジェクト」を考え、提案し続ける人材に育っていけば幸いです。

最後に、ゲスト講評会に参加いただいた千代田区環境まちづくり部の皆さん、どうもありがとうございました。

学生、教員の集合写真。ゲスト講評会にて。

文責:泉山塁威

Photo by 都市計画研究室(泉山ゼミ)

by 泉山塁威

1984年、北海道札幌市生まれ/2009年、日本大学大学院理工学研究科不動産科学専攻博士前期課程修了/2015年、明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了/アルキメディア設計研究所、明治大学理工学部建築学科助手、同大学助教、東京大学先端科学技術研究センター、日本大学理工学部建築学科助教を経て、2023年、日本大学理工学部建築学科准教授。ほか、一般社団法人ソトノバ共同代表理事・編集長、一般社団法人エリアマネジメント・ラボ共同代表理事、PlacemakingX日本リーダー

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