能登半島地震の被災リポート From 桜建会報 2024 July. No.130
TEXT=中村萌(M1・地盤基礎研究室)
側方流動の影響を受けて傾いた住宅
能登半島地震の被害は,これまでと異なる様相の被害事例がいくつか確認された。そのうちの一つが内灘町・かほく市で起きた側方流動による住宅の損害である。側方流動とは液状化した地盤が,傾斜した地中の層境界上を流れていく現象を指す。
被害の大きさを重要視した日本建築学会・基礎構造運営委員会では,悉皆調査を実施すべく調査団が結成され,酒句先生(短期大学部 建築・生活デザイン学科 教授)と下村先生(生産工学部 建築工学科 教授)は日大チームとして同調査に参加した。その一環で,「地震調査の経験は必ず将来の役に立つ」という言葉を受けた大学院生たちも一緒に調査に参加する運びとなった。
調査団の調査対象地域は25程度あり,日大チームはそのうちの広大な1エリアを担当した。調査日は2024年2月22~25日ののべ3日間(1日だけ和倉温泉周辺のビルディングの傾斜被害を視察),また下村先生たちは3月中旬に追加調査に出向いた。調査方法は調査シートに従い,一画の全住戸の様子を目視と簡単な計測でチェックする。
調査当日は,厳しい寒さの中で冷たい雨に見舞われ,過酷な環境下での調査であった。テレビで報道された被害の様子を見てはいたものの,側方流動によってジェットコースターのようにねじれた道路の隆起・陥没と,側方流動に伴い流された,もしくは大きく傾いた建物の惨い被害を実際に目の当たりにして,言葉を失った。
液状化による建物被害が直接人命を奪うことはほとんどないと言われるが,傾いた建物に住むことができない様子や周辺道路の変状による断水などで生活が一変してしまった被災地の現実を見ると,大地震の怖さを痛感した。また,液状化による住宅被害は一部損壊と判定されることが多く,財産の消失という側面からは非常に大きな痛手ということが分かり,改めて液状化に対する基礎設計の重要さを認識した。
液状化により地盤に沈み込んだビル
最後になるが,この度の能登半島地震により被害を受けられた皆様には謹んでお見舞い申し上げるとともに,被災地域の一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げる。
建築学会・基礎構造運営委員会主導で実施した液状化被害の悉皆調査に参加した日大チームのメンバーは次の通り。
酒句教明(短大建築・生活デザイン学科教授)+中村萌(理工学研究科・建築学専攻・地盤基礎研所属),羽石愛華(理工学研究科・建築学専攻・地盤基礎研所属)および下村修一(生産工学部建築工学科教授)+神原一翔,野村悠斗(生産工学研究科・建築工学専攻・下村研所属)の計6名。酒句先生と下村先生は基礎構造運営委員会のメンバーであり,本調査の幹事を担当。