竹田雅一(建築学科4年)・佐藤慎也
今回のワークショップの担当教員は、非常勤講師の岡野愛結美先生、桐圭佑先生、高池葉子先生と、専任の佐藤慎也の4人。そのワークショップの様子を、参加学生のひとりである竹田雅一さんとともに、佐藤慎也が報告します。
2024年度の「デザインワークショップ」では、駿河台を離れ、異なるまちで建築を考えることにしました。
《まちのための建築を考えるワークショップを行います。実在するまち、実在する敷地、実在する人たちに向けて、建築を考える試みです。これまでも大学の課題では、実在するまち・敷地に対する提案を行ってきたと思いますが、そこに住む・働く・勉強するといった、まちに暮らす人たちの姿を、それほど強くは意識してこなかったのではないでしょうか。今回のワークショップでは、提案するまちとして、静岡県三島市を選びました。三島は、歴史文化のある『水の郷』と呼ばれる美しいまちです。その三島に暮らす人たちとして、ユニークなまちづくりの活動を展開している地元の建設会社・加和太建設のみなさんに協力していただき、そのまちや人に向けて、実際の敷地を用いた提案を行います。その提案は、しっかりとした建築物としてつくられるのかもしれないし、たった1日だけしか存在しない仮設の構築物なのかもしれません。家具のようなものかもしれないし、ある活動だけを示すことになるのかもしれません。短期間のワークショップという限られた条件のなかで実現できるもの・ことは、おそらくささやかなものになるでしょう。しかし、そのまちのための「建築」がどのようなもの・ことになるのかは、みなさん次第です。普段は縮小された図面や模型で考えている建築を、実際のまちと人に向けて、実物大のものや実行されることとして提案できることは、貴重な機会となるでしょう。》
以前に高池先生が、加和太建設のみなさんとワークショップを実施したご縁から、今回のワークショップにおいてもご協力をお願いすることになりました。加和太建設は、三島に位置する単なる建設会社であることを超え、自分たちのまちの魅力を高めるために、さまざまな試みをまちに仕掛けています。リノベーションなどによる居場所づくりといった建築物に関わる「もの」だけでなく、まちを活発化させる人たちと共創することでさまざまな活動を行う「こと」を生み出しています。まさに、そんな会社であるからこそ、今回のワークショップにもご賛同いただき、ご協力をいただくことができ、三島というまちで実際の敷地を用いた提案を行うことが実現できたのです。
初回の8月6日(火)、25名の参加学生たちが三島駅に集合しました。まずは、駅前に竣工したばかりの加和太建設新社屋「三島のオフィス」の見学からワークショップがはじまります。この新社屋は建築家・西沢立衛さんの設計によるもので、その担当を西沢立衛建築設計事務所において本学科出身である稲葉来美さんがつとめていたことから、稲葉さんによる案内も加わりました。さらに、加和太建設のみなさんが三島のまちなかで行っているさまざまなまちづくりの活動のことも聞き、その後にまちへ出かけていきました。加和太建設のみなさんにより、あらかじめ4つの場所が候補として挙げられており、それらを順番に見学していくことになりました。源兵衛川に向かい合う駄菓子屋だったスペース、立体駐車場の入口にある軒下スペース、三島信用金庫の道路から奥まった駐車場、加和太建設の駐車場の4箇所をまわり、学生たちは気になった場所を選び、4つのユニットに分かれました。

源兵衛川でのリサーチ
駿河台に戻り、8日(木)はユニットごとに分かれてエスキースを行い、敷地から受け止めたイメージを広げていきました。そして、お盆休みを挟み、21日(水)には各ユニットの提案を共有するための中間発表会を行いました。23日(金)に再度、ユニットごとのエスキースを行い、現地での設置に向けた作業を進めていきました。このようにタワー・スコラのスタジオで行われた授業はたった3日間でしたが、もちろんその前後で実現に向けた作業が日々繰り返されていたことは言うまでもありません。参加学生たちにとっては、三島というまちに向き合う1ヶ月間となったのです。

スタジオでの制作風景(岡野ユニット)
30日(金)、各ユニットの提案を三島に設置する日が来ました。しかし、ここでアクシデントが起きたのです。まさに設置する当日に台風が接近し、残念ながら三島にたどり着けなかった学生や教員もおり、現地への設置を部分的にあきらめ、三島と駿河台をオンラインでつないだ最終発表会に変更せざるを得ませんでした。それでも、当日のゲストとして、加和太建設の河田亮一社長をはじめ、今回のワークショップを最初からコーディネートしていただいた本多大典さん、大野穂乃歌さんに加え、課題敷地の所有者としてご協力いただいた三島信用金庫の田村元宏さん、三島で加和太建設と共創している設計事務所RIAの辰巳寛太さんにもご参加いただき、さまざまなコメントをいただきました。こうして、この最終発表会は、学生たちにとっては自分たちがつくりあげた提案に対して、実際のまちの人たちからさまざまなご意見をいただける貴重な機会となったのです。
各ユニットの提案については、竹田さんより報告していただきます。
今回のワークショップの課題は、「駐車場1台分のスペース」を使って、まちがよりおもしろくなるアイデアを考えることでした。各スペースの特徴はさまざまで、川のすぐ目の前にある場所や、屋根付きの場所など、チームごとに割り当てられたスペースの特徴を活かしてデザインを考えていきました。ユニット内ではさまざまな意見が飛び交い、ぶつかり合うこともありましたが、本音でトコトン話し合った結果、ユニットのみんなが納得のいくかたちに仕上げることができました。そして、ユニットの絆もグッと深まり、はじめは初対面の人だらけでしたが、このワークショップを通じてとても仲の良い友達・先輩・後輩ができました。以下にそれぞれのユニットの提案を紹介します。
1つ目のユニット(指導:岡野先生)の提案は、源兵衛川の中に持ち運べるベンチ(休憩所)です。夏になると子供たちが川で遊ぶ光景が多く見られることから、源兵衛川の魅力をもっと活かすような提案を目指しました。計画敷地は源兵衛川の目の前にある駐車場で、昔は駄菓子屋があった場所でした。そのため、ちょっとした日陰でお菓子が食べられる場所の風景を甦らせようと計画しました。ベンチの設計には、川の水深を計測して座面がギリギリ濡れないくらいの高さを設定し、座面に関しては不思議な感覚を体験してほしかったため、ビニール紐で座面を構成して、その上にブルーシートや帆布を用いることで耐水性にもこだわりました。この布は着脱が可能なので、川周辺にあるウッドデッキにレジャーシートとして使用できるようにもなっています。日陰をつくるための屋根に関しては2枚の異なる素材の布を重ねてつくり、風に揺れるたびに奇妙なかたちができ、影にも不思議なあらわれ方をするように制作しました。

模型でのスタディ

実際に川に入れた様子

実際に座ることができるか耐久性を確認

集合写真
2つ目のユニット(指導:高池先生)の提案「カコを織り成し、イマを漂う。」は、汎用性があり、地域の人たちだけでなく、観光客にも注目してもらえる空間を目指しています。計画敷地が商店街に面する場所であったため、周辺には個性豊かな商店やホテルが建ち並んでいます。この商店街では三島大祭りが行われ、さまざまな人たちが盛大に盛り上がる場所となっています。この立体駐車場の入口にある軒下スペースは、日陰にもなっているため、お祭りの際には休憩所のような場所としても活用されています。このようなお祭りの活動や三島での出来事を記録し、現代につなげていく場をつくるために、天井から糸を垂らして、その糸に写真を貼っていくアーカイブの装置「カコ」と、少しアクティブな休憩所の役割を持つ装置「イマ」の2つを制作しました。

ダイアグラム

座る部分のデザインを試していく

現地でスタディを繰り返す

軒下スペースに設置されたオブジェクト

実際にオブジェクトに座ることができる
3つ目のユニット(指導:桐先生)の提案「ヒラクモリ」は、三島信用金庫の奥まった駐車場に背の高いオブジェクトを置くことで、人々の活動を促し、新たな風景をつくるというコンセプトでデザインされたものです。オブジェクト自体は、三島に芽吹く草花をテーマにデザインされていて、ふわふわ風になびいたり、カラカラと音が鳴ったり、光を反射させたりと、色々な効果を持つ装置になっています。この装置が新たな目印となり、単なる駐車場であった場所が、集合場所となったり、このオブジェクトを中心に活動が展開していく「拠り所」となることを期待して制作しました。そして、この提案は、三島にあるほかの駐車場にまで展開する可能性を持つものと評価されました。

模型でのスタディ

実際に駐車場に設置された装置

光を反射させる装置

駐車場が拠り所に変化する

三島のまちに広がっていく装置
4つ目のユニット(指導:佐藤慎也)の提案「KAWATA CONSTRUCTION SATELLITE DESK」は、加和太建設の駐車場を計画敷地に選んでいます。コロナ禍を経て加和太建設が展開している分散型オフィスの試み「まちなかオフィスプロジェクト」に注目し、「どこでも自由に席を選んで働くスタイル」を、三島のまちなかにある駐車場にまで広げるアイデアです。壁も天井もない開放的な空間で、通りすがりの人と気軽におしゃべりをしてまちを盛り上げ、気分に合わせてかたちを自由に変えられる工業製品を用いた、可変性のある駐車場サテライトデスクを制作しました。これによって、まち全体がみんなのオフィスや遊び場になるような、新しくて自由な過ごし方を提案しました。

強度が十分かを座って試してみる

まちなかオフィスのための家具

状況に応じて組み替えることができる
それぞれのプレゼンテーションを終え、ゲストのみなさんから最後にコメントをいただきました。
本多さん「実際に現場で設営しているときに、まちの人たちから学生たちが声をかけられている様子を見て、グランドレベルで新しい動きを起こしたときに生まれるまちの反応を感じました。今回のアイデアや制作物を、何らかのかたちで今後の三島のまちづくりにつなげていきたいと思います。」
大野さん「無機質な駐車場にこうした異質なものがポツンとあらわれると、『あれは何だろう?』と純粋に気になり、そこに行ってみたいという気持ちが生まれ、それが三島のまちの印象になっていくことがイメージできました。」
田村さん「実際にまちを使った実践を目の当たりにして、金融機関としても、もっと柔軟に、広くまちの活性化のアイデアを考えていかなくてはならないと刺激をもらいました。」
辰巳さん「実際の場所に置いたときに、人々がどのように使うかを観察し、そこで生まれる会話や予想外の行動の中にこそ、次の新しい設計のアイデアが眠っています。三島のまちには、こうした試みをおもしろいと受け入れてくれる大人がたくさんいます。」
そして、最後に河田社長からは、「まちに置かれた小さなものが、人や空間に与える影響力を実感できる、素晴らしいプログラムでした。今回提示された仮説やプロトタイプを、ただの提案で終わらせずに、実際の現場に設置して、本当にどんなことが起きるのかをしっかりと検証・実装していきたいと考えています。」とのコメントをいただき、最終発表会を終えました。
さらに最終発表会以降も、引き続き加和太建設をはじめとする三島のみなさんにご協力いただき、最後にはほとんどの案が実際の設置にまでたどり着くことができました。
三島という場所と出会い、そこに暮らす人たちと出会い、そのまちと人たちに提案ができたことは、参加した学生たちにとっては貴重な経験となったことでしょう。ご協力いただいた、河田社長、本多さん、大野さんをはじめとする加和太建設のみなさんには、改めて感謝を述べたいと思います。ほんとうにありがとうございました。
加和太建設ホームページの紹介記事:https://www.kawata.org/news/240830/

