
日本大学理工学部CST MUSEUM第22回特別展連携企画
日大理工・建築学科が挑む、災害と都市の未来
第1回 5人の専門家が語るエンジニアリング
日本大学理工学部CST MUSEUMで2026年7月31日から開催される第22回特別展「地震災害を科学する―日大理工のエンジニアリング―」。建築・都市・デザイン系(5学科)の教員が展示監修を行い、地震の発生メカニズムから建物や都市に生じる被害の検証、耐震・免震・制振などの技術、そして減災や復興への取り組みまで、日大理工が行っている多彩な研究と実践を紹介しています。
SHUNKEN WEBではこの特別展と合わせて、数回にわたり建築学科の教員による “災害と都市の未来”について深掘りしていきます。
第1回は特別展の紹介として、建築学科から展示監修に参加した5名に、各専門分野における見どころなどを伺いました。
〈1〉耐震構造の確立と日大理工のDNA
---宇於﨑 勝也 教授[都市計画研究室]
「都市計画」が専門の宇於﨑教授は近年、日大理工の祖である佐野利器の実像に迫る論文を執筆。この特別展では、佐野利器を起点に耐震と日大理工の始まりを解説する「はじめに―『耐震』と『日大理工』ことはじめ―」を担当しました。
――宇於﨑先生が監修した展示の見どころは?
「はじめに」では、佐野利器に焦点をあてています。佐野は、耐震設計法として「地震時には建物重量の1/10の水平力がかかる」ことを提案しました。また、日大理工のルーツは日本大学高等工学校(1920年開設)にありますが、佐野はこの学校の講座と教員を整え、初代校長になりました。つまり、耐震構造と日大理工を生み出した人物なのです。
――佐野利器から始まる日大理工の耐震の理念は、現代の建築やまちづくりにどのように受け継がれていますか?
佐野は、関東大震災後に「帝都復興院建築局長」として復興事業に邁進します。関東大震災の被害総額は55億円、復興予算はおよそ20年で40億円と見積もられました。時間と予算をかけてよりよい都市をつくる見本が、当初の帝都復興事業にはありましたが、さまざまな会議で検討されるうちに直接的な予算は4.9億円となってしまいました。まちづくりの「合意形成」とは、かくも難しいことです。
――「都市計画」とは?
皆さんが暮らす都市には、目には見えませんがいろいろなルールがあり、将来像を持っています。たくさんの人が暮らしているので、トラブルも起きます。都市に関するさまざまな課題をくみ取って、皆さんが安全・安心・快適・利便に生活できるように計画するのが「都市計画」です。

「はじめに―『耐震』と『日大理工』ことはじめ―」より
〈2〉揺れをコントロールする!耐震・免震・制振の最前線
---秦 一平 教授[免・制震構造研究室]
「免震・制振構造」が専門の秦教授は、船橋キャンパス3号館の免震補強工事や14号館の制振装置、駿河台キャンパスのタワー・スコラの「免震・制振」ハイブリッド構造に携わりました。この特別展では、「耐震?免震?制振?」ゾーンで地震災害から建物を守るしくみと技術を紹介しています。
――秦先生が監修した展示の見どころは?
耐震・免震・制振の違いがわかる「手動ぶるる」です。ぜひ模型を自分の手で揺らして、揺れに対する建物の応答の違いを体感してください。ほかにも、免震用の小型積層ゴムやダイナミック・マスを用いた制振システムも展示しています。共振を抑えながら建物を守るしくみを、見て、触れて、比較してください。
――免震装置や制振装置が「見える」校舎で、建築を学ぶ意義をどのように考えますか?
日大理工の校舎は船橋キャンパスでも駿河台キャンパスでも免震・制振装置が間近で見られるので、学生は授業で学ぶ理論が実際の建物にどう生かされているかを、校舎という身近な実物教材で確認できます。日常の風景から「構造技術」への興味や理解を深めるとともに、将来の研究や設計を考えるきっかけにもなっています。
――「免震・制振構造」の面白さとは?
目に見えない地震の力や建物の揺れを読み解き、安全で快適な空間を形にできることです。耐震・免震・制振の技術を組み合わせて被害を減らす新しいしくみを考え、実験で確かめながら、人の命と暮らし、そして社会の安心を守ることに、大きなやりがいと誇りを感じています。

手動ぶるる
〈3〉建物はどう壊れるのか?シミュレーションで被害を検証
---田嶋 和樹 教授[RC構造・構造解析研究室]
「構造工学」が専門の田嶋教授は、シミュレーションによって古い建物が地震によって倒壊していくメカニズムを明らかにする研究を行っています。この特別展では、「被害を検証する」ゾーンで「建物の倒壊・崩壊のしくみを解き明かす」を担当しました。
――田嶋先生が監修した展示の見どころは?
大地震時には、建物が倒壊・崩壊する可能性があります。そのため、建物の倒壊メカニズムをパネルで展示したり、建物の倒壊・崩壊事例を動画で紹介したりしています。一番のオススメは、KAPLA®ブロックを用いた体験展示。自分の手で作った建物模型を倒壊・崩壊させてみてください。そしてぜひ、その理由も考えてみてください。
――田嶋先生が研究している「建物倒壊のシミュレーション」は、未来の日本のまちづくりをどう変えていきますか?
大地震時の建物の倒壊・崩壊は、旧耐震基準の建物で多く発生しています。そのため、耐震性の低さが建物を短命にしているという一面があります。しかし、耐震性の低さを合理的に改善できれば、建物を永く使い続けられる社会を実現できます。高度なシミュレーションを駆使することで、従来では救えなかった建物を救えるようになるかもしれません。
――研究活動でのやりがいや面白さとは?
微力ながら、私は「災害≠不幸」な社会の実現に向けて研究を行っています。建物の倒壊・崩壊を防ぐことができれば、地震災害で悲しい思いをする人を減らすことができます。学問的にも、建物の倒壊・崩壊挙動は複雑すぎて難解であり、それに挑戦することが面白くもあります。

KAPLA®ブロックによる建物模型の倒壊・崩壊実験
〈4〉命を守る現場の知恵!実践的な救助訓練
---宮里 直也 教授[空間構造デザイン研究室]
「構造工学」が専門の宮里教授は、さまざまな建物の構造設計や技術協力に携わる一方、近年は大地震で倒壊した木造住宅を想定した救助訓練のためのキットを開発し、実践的な救助訓練活動を支援しています。この特別展では、「減災を目指す」ゾーンで「命を守るための救助訓練キット」を担当しました。
――宮里先生が監修した展示の見どころは?
「命を守るための救助訓練キット」では、地震で倒壊した木造住宅の内部で人を助ける場面を、救助訓練キットを通して具体的にイメージできます。建物の壊れ方を読み取り、どこから入り、どこを支え、どう助けるのか。皆さんには、建築構造の知識が現場で命を守る判断につながることを感じてほしいです。
――建築を学ぶ学生が「災害後の実践的な救助訓練」を経験して、得られるものは何ですか?
災害後の救助訓練を経験することで、設計図の中の建物ではなく、人が暮らす空間として建築を考えられるようになります。建物が壊れたときに「どこが危険か?」「どうすれば逃げ道や救助しやすい空間を残せるか?」を意識することで、将来の安全な設計につながり、建築の責任を実感できる学びとなることでしょう。
――「構造工学」の魅力とは?
建築構造は、建物を強くするだけでなく、災害時や災害後に人の命を守る判断にもつながっています。柱や梁、床がどのように壊れ、どこを支えれば安全に活動できるのかを考えることは、建築を「つくる技術」から「社会を守る技術」へと広げてくれます。安全な社会に直結しているところに魅力があります。

命を守るための救助訓練キット
〈5〉ただ家を建てるだけじゃない?コミュニティを再生する復興
---山中 新太郎 教授[地域デザイン研究室]
「地域デザイン」が専門の山中教授は、東日本大震災で被災した宮城県石巻市雄勝地区で住民の高台移転や集会所の整備などに協力。能登半島地震の被災地のまちづくりについての講演も行っています。この特別展では、「復興を支援する」ゾーンで「漁村集落の再生」を担当しました。
――山中先生が監修した展示の見どころは?
「漁村集落の再生」では、模型と動画を展示しています。模型は、私たちが石巻市雄勝地域の復興を支援していた2013年ごろに作成したものです。震災前の雄勝中心部伊勢畑地区を模型にしたので、海の近くに家が立ち並んでいるのがわかります。復興後の様子を映した動画では、防潮堤ができて海を見下ろす高台に行政施設や住宅が立ち並んでいます。震災の前後で、まちがどれほど変わったのかを見比べてください。
――山中先生のような専門家が行政と住民の間に立って復興まちづくりを進めることは、未来の建築やまちづくりにどのような可能性を生みますか?
被災者の生活は、避難所から仮設住宅、そして復興後の新しい住宅まで時間をかけて変化しますが、その間に被災者自身の気持ちも刻々と変わっていきます。そのような住民に寄り添い未来を一緒に考えられる中立的な存在として、専門家は、行政の計画を理解した上で現実的な復興支援ができるのです。災害復興では、通常の設計やまちづくりと違って変化する状況に応じた提案が求められるので、平常時にはない新しい建築やまちづくりの可能性を拓くことになるかもしれません。
――「地域デザイン」にかかわる醍醐味とは?
私は、災害から復興する際の高台移転の計画や災害公営住宅の計画、集会所の設計などの支援をしています。東日本大震災の復興支援では、建築学科の学生や大学院生も大勢現地に赴き、実際に高台移転や建築の計画に携わりました。現地に何度も足を運び、行政や住民の話を聞き、さまざまな条件を踏まえて計画や設計を行う。それが地域の復興の原動力となることに、やりがいを感じています。

「漁村集落の再生」より
日本大学理工学部CST MUSEUM第22回特別展
地震災害を科学する-日大理工のエンジニアリング-
2026年7月31日(金)から2027年6月30日(水)
開館:月曜日–土曜日10:00–17:00(入館は16:30まで)
休館:日・祝日/大学が定める休日/夏期休暇中の土曜日
入館料:無料
場所:日本大学理工学部船橋キャンパス内
https://www.museum.cst.nihon-u.ac.jp/

みなさんぜひお越しください!
