海外出張・研修レポート
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第50回海外研修旅行レポート No.2 “建築は人の営みの軌跡”
by SHUNKEN編集部

海外研修旅行レポート From SHUNKEN 2019 Jan. vol.46 no.4

各時代を代表する名建築をなぞりながら、ヨーロッパ全土を駆け抜ける旅。大川先生の先導のもと、脈々と続くヨーロッパ建築史の大いなる川に身を委ね、身を以てその体系を学んだ24日間であった。語りたいことは山ほどあるが、旅に一貫してあった「文脈」という視点を中心に振り返りたい。

つくっては壊される街並みに慣れてしまった日本人の私にとって、今なお受け継がれる西洋の歴史的建築群は、どこまでも新鮮であった。この土地の人々の保存・修復を重んじる姿勢は、決定的に我々とは異なる。この価値観は、西洋建築を語る上で避けられない“石”という素材にルーツがあると考えた。欧州は、地続きゆえに、民族の移動を余儀なくされてきた。人や文化が揺れ動く中、不変であるものを求める心理が、“石”の包含する永遠性に強く共鳴したのだと思う。その土地で採られた石と、その石で造られた建築は、絶対座標として民族意識の拠点となっている。だからこそ、民衆は建築を愛し、継承することができ、何百年経った今も、オーダーを見るだけで当時の権力者の勢いが蘇ってくるのだ。

建築様式の発展は、歴史的コンテクストの上で活かされている。さらに、各様式は、発生から成熟まで建築家の手によってリレーのように引き継がれている。面白いのは、時代を切り開くのは技術者で、後続して発展させるのが建築家という法則が見られることだ。ルネサンス建築におけるブルネレスキ、アルベルティ、ブラマンテという遷移、ウィーン・ゼセッションにおけるO・ワグナーからA・ロースをはじめとするモダニズムの展開など、歴史は繰り返されるのである。

印象的な風景に、ディジョンの街がある。夜も明け切らない早朝、仲間とともに朝市を見に旧市街へと足を運んだ。昼とは違い、静かなリベラシオン広場。冷たい空気を頬に、路上で開店の支度をする人々。アーケードを覗けば、色彩豊かな品の並ぶ市が開いていた。歴史の息づくまち並みと、そこに暮らす人々の日常が重なった情景を前に、爽やかな感動を覚えたひとときであった。建築がひとりでに建つことはなく、風土や時代、人間の文脈の上に成立する。建築は人の営みの軌跡なのだ。

設計の授業では、よく模倣しなさいと言われる。なるほど、ようやくこの言葉の奥深さを理解した。たゆまなく続く系譜の中で、模倣し模倣され、バトンが渡ってゆくさまは、この上なくドラマチックだ。その壮大な劇を目の当たりにした私は、ただただ憧憬の念を抱くばかりである。

text = 森野和泉(2年)

ウィ-ン郵便貯金局

デイジョンの市場の内部

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