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Visit & Criticism 学生建築探訪 vol.15 「杉並建築展2020~これからの価値~」体験レポート
by SHUNKEN編集部

Visit & Criticism 学生建築探訪 From SHUNKEN 2021 Jan. vol.48 no.3

 

TEXT=石田弘樹・一柳亮太郎・岩﨑正人(M1・古澤研究室)

 

今まで当たり前だったことが見直されているコロナ禍で、住まい方や働き方、人との距離感などの変化もまた、これからの建築に影響を及ぼすことでしょう。時代の転換期を生きる私たちが、これからの建築を考えるとき、それが「ポジティブで新しいものかどうか」は重要なテーマとなるのではないでしょうか。今回私たちは、杉並区役所内のギャラリーで2020年9月1日~11日に開催された「杉並建築展2020」に参加させていただきました。これは、杉並区を拠点に活動する19組の建築家たちが「これからの価値」というテーマのもと、ポスト・コロナ時代にふさわしい価値を立体物で表現し、議論を交わすものです。壮大で難しい議題ではありますが、会期中に行われたトークイベントにも研究室のメンバーとともに登壇させていただき、建築家の議論に参加するという大変貴重な経験をさせてもらいました。

 

私たちが出展した作品の概要

私たちは、アルド・ロッシ著の『都市の建築』に記載されている「アルルの円形闘技場」の図版から、「これからの価値」を読み取り、立体化(模型化)することを試みました。この図版の魅力は、闘技場から集合住宅へと用途が移り変わりながらも、既存の形態に呼応していく「したたかさ」にあります。また、想定外の使い方を受け入れる「寛容さ」や、既存の構築物に多様性を与える「見事さ」が、豊かな世界をつくりあげているように感じます。この「アルルの円形闘技場」の「したたかさ・寛容さ・見事さ」は、これからの時代に相応しい価値を創造するものと考えます。模型化するにあたり、複数の視点を同居させること、そして、複数の主体を肯定することなどをコンセプトに掲げながら試行錯誤を繰り返し、ポスト・コロナ時代における「これからの価値」を提示することを試みました。具体的な設計プロセスについては、以下(https://suginami-kenchiku.net/2020/08/31/daisukefurusawa/)に記載されていますので、そちらもチェックしてください。その他の出展作品で、3人が気になったものを紹介したいと思います。

 

 

1.PERSIMMON HILLS architecture /芝公園のオフィス

従来のオフィスビルの価値は、最寄り駅から徒歩何分か、都内のどの辺りかという「立地」に委ねられていました。また、基準階を機械的に積層させた均質空間となっていて、空間自体の価値は軽視されていました。しかし、「芝公園のオフィス」は、空間の固有性がそのまま外観に現れ、そのファサードデザインは、従来の表層的な操作に留まっていたオフィス建築への挑戦のようにも思えます。人の振る舞い方や考え方の変化より、「これからの価値」を読み取って、建築として表現した模型から、コロナウイルスに対してどのように建築家が介入することができるか、その可能性を感じました。(石田)

 

2.久保秀朗+都島有美/ THE SCREEN “Moon Phases”&”Morning Dawn”

ホテルの一室を改装するプロジェクト。室内への採光を「月の満ち欠け」のように調光操作する、新たな客室デザインが提示されています。身体の多くが水分でできている人間に対して「潮の満ち引き」は、身体や感情に大きな影響を及ぼすと考えられています。自然がつくり出す情緒的な瞬間には、儚さ故の美しさがあり、日常から離れた別世界のようにさえ感じられることがあります。その一瞬が部屋の中に溶け込んでいくこの作品には、旅人を柔らかく包み込み、守ってくれているような安心感がありました。外出自粛により身体を移動させられない状況になっても、読書、映画、写真など、さまざまな手段で心は別世界に移すことができる。そのような客室のデザインに魅力を感じました。(一柳)

 

3.T/H+小杉湯/小杉湯となり

「銭湯」と「くらし」をつなぐ場の提案です。小杉湯で成熟している緩やかなコミュニティや、直接誰かと話さずともその「誰か」を感じることのできる弱い連帯感が、「リアル」と「バーチャル」に二分化されるコロナ以降において、“緩衝材”としての役割を果たす可能性を感じました。学生の中でも、特に新入生には、地方から東京へ移住し、授業はオンラインのみで、近くにリアルな親しい友人がいない環境に晒されている人は少なくないかもしれません。オンライン授業やリモートワークが普及する一方で、人を感じることができ、弱くとも直接つながるコミュニティというものが、コロナ以前とは異なる質で形成されるのかもしれないと思いました。(岩﨑)

写真1:https://suginami-kenchiku.net/2020/08/30/persimmonhillsarchitects/

写真2:https://suginami-kenchiku.net/2020/08/31/kubotsushima/

写真3:©Katsuhisa Kida / FOTOTECA | https://suginami-kenchiku.net/2020/08/25/thpluskosugiyu/

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