2024年、COVID-19によるパンデミック以降、5年ぶりとなる海外研修旅行が行われました。私が学部2年生の頃に参加を希望していた海外研修旅行は、感染症の蔓延によって中止となりましたが、修士2年時に研修旅行が再開することを聞き、参加することを決意しました。私が参加したコースは、フランス、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークと北欧中心の全5か国を16日間で巡る旅でした。
5年越しに叶ったヨーロッパ研修旅行は、出会いと感動の連続で、ヨーロッパで過ごした16日間で出会いと感動のない日は、1日もありませんでした。40人近くの参加学生もほとんど面識がなく、初めましての仲間たちと出会うことから始まりました。
パリに着くとすぐに、建築や文化、人など、さまざまな出会いがやってきます。レストランで、恐る恐るカタコトの英語を話す我々に、冗談を言って笑わせてくれたウェイター。街中でフランクに話しかけてくれる街の人びと。湯船のないシャワーだけのバスルーム。電気を点けても圧倒的に日本より薄暗い客室。ガイドが話してくださる教育や政治の違い。そして、どこへ行っても圧倒される建築。
大学の講義
や分厚い書籍の上、パソコンの画面などで何度も見聞きした建築や街の風景が、帰国した今でも目に焼きついています。100年近く経つとは思えないほど美しいステンドグラスとコンクリートに圧倒されるオーギュスト・ペレ設計の「ランシーの教会堂」(写真1)。ペレの弟子であるル・コルビュジエ設計の「サヴォア邸」は、緑の木々に囲まれながら、広い敷地の中央に堂々と佇む姿に感動しました(写真2)。「アアルトのアトリエ」は、劇場のような広場を持ち、細部まで計画し尽くされた美しいディテールや暖かみのある家具に魅了されます(写真3)。異世界に入り込んだかのような教会の数々には、授業や書籍で学んださまざまな様式に、毎回圧倒されました。
写真1 写真を撮る学生。RCとステンドグラスの対比(ランシーの教会堂)
写真2 自然の中央に堂々と佇むサヴォア邸
写真3 細やかなディテールと暖かみのある家具(アアルトのアトリエ)
自由研修では、私の興味が美術館や美術作品であることから、全体研修では周りきれない美術館やギャラリーを、時間の許す限り周りました。
特にオルセー美術館に入った際の感動は、忘れることはないでしょう。大時計や細部にまで装飾が施された外観。中へ入ると、美術作品をみる空間としては、体験したことがないほどの開放的な空間が広がっていました(写真4)。もちろん有名な彫刻や絵画は、日本でもみることができますが、大空間に点在する彫刻や大きな絵画は、オルセー美術館ならではの見え方や体験性であったように感じます。
全体研修で訪れたルイジアナ美術館もまた、魅力的でした。海を背景に自然に寝転びながら眺めるカルダーやムーアの彫刻(写真5)。展示室に入ると、ガラス越しの自然を背景に、ジャコメッティと並ぶブルジョワのスパイダー(写真6)。地下展示室に展示される現代アート。庭に隣接されたカフェ。アートや建築に興味のない誰もが楽しめると言っても過言ではないほど、魅力的に計画された美術館でした。
最近では、現代アートの展覧会に訪れることが増え、私も当たり前のように展示室以外の場所でも、作品を鑑賞しています。しかし、伝統的な絵画や彫刻の作品が素晴らしいのはもちろんのこと、展示する空間によってこんなにも魅力的に見えることに感動しました。作品が展示される環境によって、作品の見え方や印象が変化することや、美術館が美術作品だけの場ではなく、訪れる人々が過ごしやすい場であることが大切なのでしょう。そんなことを再認識させられる美術館巡りでした。
写真4 開放的な大空間と点在する彫刻、左右の展示室(オルセー美術館)
写真5 海を背景に、庭に展示されるアレクサンダー・カルダーの彫刻(ルイジアナ美術館)
写真6 アルベルト・ジャコメッティと並ぶルイーズ・ブルジョワ(ルイジアナ美術館)
16日間の研修旅行は、私に新しい出会いと経験、感動を与えてくれました。同行していただいた佐藤光彦先生、同級生、後輩、そして添乗員のふかちゃん。研修旅行に参加しなかったら、きっと関わることがなかったであろう方々と出会えたことも、とても嬉しく思っています。光彦先生が呼び始めた「団長」という私の呼称は、不本意にも皆に浸透し、帰国した今でも団長と呼ばれています。そんなことすら、良い思い出として心に刻ませられる、私の人生で圧倒的に最も濃く、充実した16日間になったことは間違いありません。
山中 基暉(建築学専攻 修士2年|建築計画研究室(佐藤慎也ゼミ))