響きを生み出す音楽ホールそのものが「楽器」である
音楽の劇的感動体験で好奇心に火が付いた
大学生の頃はステレオ鑑賞とギターを趣味に持つ音楽ヲタク族のひとりでした。
そんな自分がホール音響の研究を行っているゼミに魅せられたことは必然でした。でも、環境・音響工学の勉強は奥が深く、先生や先輩から教えてもらう音響学と自分の音(音楽)体感が全く結び付かず、モヤモヤしていたことを覚えています。
そんなある日、「東京文化会館でコンサートがあるけど行く? 指揮はC.クライバーだから超強力だよ!」と、クラシック音楽愛好家の先輩から1枚のチケットを譲ってもらいました。自分でお金を払って行ったはじめてのクラシックコンサートでした。
指揮者のタクトが振り下ろされた瞬間からアンコールの「雷鳴と電光」が終演するまで、私の全身の細胞はタクトが生み出す音楽の魔法によって陶酔状態でした。
一糸乱れぬアンサンブル。
緩急自在、流麗で活力あるフレージング。
まさに劇的な感動体験でした。
この体験から私の好奇心に火が付き、所持金のほとんどはコンサートと音楽CDにつぎ込まれました。その甲斐があってか、自分なりに音楽の「聴き方」が身に付き、また、Live演奏体験からわかったことは、演奏会場が異なると演奏音の聴こえ方が変わること、同じ音楽ホールでも客席の位置によって響きが異なること、そして、響きを生み出すホール空間そのものが「楽器」であることでした。
ホールは音楽を仲立ちとした人と人とのコミュニケーションの場。
その場となる空間を創造することは、実に面白い!音響学と建築がようやく頭の中でリンクして、「あ~楽しくなってきたな~」と思いはじめたのは、大学院2年の終わり頃でした(笑)。
その後、縁あって建築学科の教員となり、相変わらず楽しい音楽体験を続けながら、現在は舞台上の演奏者の立場から見た音響や声の伝達性、パブリック空間の音についての研究も行っています。
これらの音環境の研究はもとより、光環境にも取り組みながら、人の感覚を通した建築空間の思考の旅を続けていきたいと思っています。