
2026年8月25日(火)から31日(月)にかけて、日本大学大学院理工学研究科博士前期課程建築学専攻2年の児玉陽斗と、都市計画研究室(泉山ゼミ)指導教員の泉山塁威准教授が韓国・ソウルを訪れ、明洞地区の屋台と道路空間に関する研究調査を行いました。
近年、日本では道路を通行のためだけでなく、滞在や交流、商業活動の場として活用する動きが広がっています。一方、道路上でこうした活動を日常的に続けるためには、歩行者、車両、荷捌きなどの利用を調整しながら、行政や営業者が継続的に管理・運営していく必要があります。そこで私は、屋台を通して、商業活動を受け止める道路空間の使われ方と、それを支える空間・交通・運営の仕組みを研究しています。
調査対象とした明洞は、ソウル特別市中区に位置する韓国を代表する商業・観光地区です。道路上に屋台が日常的に出店し、午前は車両通行や荷捌きに使われる道路が、午後には屋台と歩行者が集まる空間へと変化します。今回の調査では、屋台の配置や歩行者の活動、時間帯による交通の変化を記録するとともに、屋台営業者へのインタビューを行い、この道路空間がどのように成り立っているのかを調べました。
一日の中で姿を変える明洞の道路
明洞では、営業者への聞き取りによると、平日は16時、休日は13時からという営業開始時刻や出店位置など、一定のルールのもとで道路上の屋台営業が認められています。
朝の明洞では屋台はほとんど見られず、道路は歩行者の通行や店舗への荷捌き、車両交通などに使われています。一方、午後になると屋台が次々と現れ、夜には同じ道路が屋台と歩行者で満たされた賑わいのある空間へと姿を変えます。

通行や荷捌きが中心となる朝の明洞(筆者撮影)

屋台が並ぶ夜の明洞(筆者撮影)
屋台営業者へのインタビュー調査
この屋台空間が毎日どのようにつくられているのかを知るため、現地では屋台営業者へのインタビュー調査を行いました。明洞の屋台は自由に出店しているわけではなく、行政により営業者の道路占用許可や営業場所などが管理されています。

屋台営業者へのインタビュー調査の様子。左から屋台営業者、オム・ジヨン氏(EOD DESIGN/通訳・調査協力)、児玉陽斗(筆者)(撮影:泉山塁威)
インタビューした営業者によると、営業終了後の屋台は、複数の営業者で借りる倉庫や周辺の駐車場などに保管されているとのことでした。営業時には、そこから屋台を人力で押したり、バイクで牽引したりして営業場所まで移動させ、毎日の屋台空間をつくり出します。

屋台を人力で営業場所まで移動させる様子(筆者撮影)
また、興味深かったのが電源の確保です。営業者によると、以前は沿道建物から電源を確保していましたが、現在は明洞に設置されたデジタル広告設備「Myeongdong Media Pole」に設けられた電源から給電を受けているとのことでした。現代的なデジタル広告設備が、昔ながらの屋台営業を支えるインフラとして使われていることが印象的でした。

明洞の街路に連続して設置されたデジタル広告設備(Myeongdong Media Pole)(筆者撮影)

Myeongdong Media Poleに設けられた電源から給電する様子(筆者撮影)
屋台から見えてきた「道路内建築」
ソウルのまちを歩いていると、仮設的な屋台だけでなく、道路上に設置された常設型の販売施設や休憩施設も目に入りました。こうした道路上の常設施設は、いわば「道路内建築」とも呼べる存在です。
既存の屋台を整理・規格化し、常設型の販売施設として道路上に設置する事例も見られました。また、大通りの歩道上には、バス停に隣接した小規模な常設施設も確認できました。

従来の屋台を規格化・常設化した販売施設(筆者撮影)

バス停に隣接して設置された小規模な休憩施設(スマート・シェルター)(筆者撮影)
ソウルでは古くから歩道や車道上に露店が存在し、「道路上で商業活動を行う」という風景が都市の日常の一部となってきました。そのため、道路上に小規模な施設を設けることへの受け止め方も、日本とは異なるのではないかと感じました。
仮設的な路上活動を単純に排除するのではなく、管理しながら都市の中に取り込み、一部を規格化・常設化していく。そこには、既存の都市活動を受け継ぎながら道路空間を更新していく、ソウル独自の考え方が表れているように思います。
おわりに
急速な都市化を経たソウルでも、屋台は一律に排除されるのではなく、管理や制度化を受けながら、現在も明洞の道路を特徴づける存在として残されています。
日本で「屋台」と聞くと、夏祭りやイベントなどで一時的に現れる風景を想像する人も多いかもしれません。しかし明洞では、それに近い光景が日常的に道路上につくられています。
高層建築やデジタル広告が並ぶ明洞の中心で、屋台ではとの営業者との会話や営業者同士のやり取りが生まれ、料理の匂いや音が道路にあふれています。現代的に更新された都市の中に、人と人との距離が近い、いわば「アナログな都市体験」が共存していることが、今回の調査で特に印象に残りました。
明洞を訪れる機会があれば、観光地としてまちを見るだけでなく、午後になると道路上に突如現れる「小さな仮設建築」のような屋台にも目を向けてみてください。建物の中だけでなく、道路そのものを使ってまちを楽しむという、ソウルならではの都市体験を感じられると思います。
児玉陽斗(日本大学大学院理工学研究科博士前期課程建築学専攻2年 都市計画研究室(泉山ゼミ))
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