海外出張・研修レポート
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第50回海外研修旅行レポート No.1 想像をかき立てる建築
by SHUNKEN編集部

海外研修旅行レポート From SHUNKEN 2019 Jan. vol.46 no.4

青く乾燥した空の下、勧誘の声、車の音、観光客の視線、あまい匂いが五感を刺激する。しかし、町中に佇む教会には、暗がりの静けさがあり、一歩入ると異世界だった。中でもシュテファン教会の高く天まで伸びるシャフトから、リブがあらゆる方向に延びていく様子は、枝分かれする木々のように神秘的で、森の中にいるかのようだった。ステンドグラスは鮮やかに光を落とし、晴れ晴れとした外界を思わせる。町中に誰をも受け入れる森のような場所があることを幸せに感じた。町中の教会は、唯一自分と向き合う場所なのかもしれない。日々の生活の中で、自分の中の感情と向き合う空間、時間は限られる。自分の住みかは趣味のモノで溢れ、心地よい場所ではあるが、ぼーっと瞑想を繰り広げる空間とは異なる。

ラ・トゥーレット修道院では、外界から遮断された空間において、瞑想状態を継続させるための仕掛けがあった。水平連続窓は、角砂糖と呼ばれるブロックを目切りとしてはめ込むことで、連続した風景から、ふと我に帰らせ、再び瞑想を継続させている。一方で、中庭を臨む開口は、リズミカルなマリオンの配置により、楽観的に見せていた。これは、多くの修道士が暮らす修道院に豊かな交流を生むための仕掛けであろう。このことは、ル・トロネ修道院でも感じられた。中庭には、当時、葡萄の栽培が行われ、豊かなサロン空間があった。その風景をアーチによってリズミカルに切り取ることで、より印象的な風景をつくり上げていた。実はル・トロネを参考にして、ル・コルビュジエはラトゥーレットをつくっている。

ユニテ・ダビダシオンで泊まった部屋は、一住戸を間仕切りで2部屋にした形であった。そこには、生活の流れが一筆で描ける最小の空間があった。ベランダからは町が見え、細長い空間が町に延長されていくように感じられた。そして、ユニテに来て、私が最も感動したのは屋上である。夕方、屋上に行くと住民や地域の人が集まり、エクササイズが行われていた。しかも、友人2人も参加していて妙に馴染んでいた。私も本当は参加したかった。他にも幼児がプールで遊んでいたり、夜になると食べ物を持ち寄ってパーティーをしていたり、カップルがいたりと、屋上にも地上と変わらない光景があった。ユニテには、最小の私的空間に豊かな共有空間が存在すると感じた。何よりもホテルとして公開されながらも、住民たちの生き生きした生活風景が見られたことが、新鮮な体験であった。こんな体験ができることこそ、建築を見に行く醍醐味であろう。

text = 佐藤朝子(3年|佐藤光彦研究室)

ル・トロネ修道院

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