受賞者インタビュー
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「2019年日本建築学会作品選奨」受賞記念インタビュー:近藤創順 非常勤講師 コンセプトを共有し伝え続ける大切さ
by SHUNKEN編集部

2019年日本建築学会作品選奨

めぐみ会第一仏光こども園新園舎

瀬戸健似(プラスニューオフィス代表取締役)  

近藤創順(プラスニューオフィス取締役)

インタビュイー:近藤創順 非常勤講師

インタビュアー:山中新太郎 教授

 

-2019年日本建築学会作品選奨の受賞おめでとうございます。まずは簡単な自己紹介をお願いします。特に、本学出身ということで、大学を卒業してから今までのことを教えていただけますか。

近藤:僕は、1998年に理工学部建築学科を卒業し、大学院へ進学しました。高宮眞介研究室の出身です。当時は、佐藤慎也先生が高宮研の助手をされていました。研究室に入るまでは、あまり設計に一生懸命に取り組む学生ではなかったのですが、高宮研に入ってからは、周りの学生たちがすごく熱心で、その環境に引っ張られるように、自分も一生懸命に取り組むようになりました。結果、研究室に入ってからの数ヶ月間で、建築の面白さに気付きはじめ、大学院への進学を考えるようになりました。だから、大学に入ってからの 3年間と、研究室に入ってから大学院を修了するまでの3年間の密度の差は、とても大きかったです。当時の高宮研は、建築家を志し、アトリエに就職を希望する人が多く、僕もそのひとリでした。僕が学生だった当時は、非常勤講師だった佐藤光彦先生が、住宅をいくつか発表されていた時期でした。オープンハウスなど で「梅ヶ丘の住宅」や「仙川の住宅」を見せていただくと、他の建築とは全く違うものが僕に響いてきて、ずっと心に残っていたんです。そして、自分が、いざ就職先を考えた際に、佐藤光彦建築設計事務所の門を叩いていたのです。

 

-佐藤光彦先生の事務所には、 どれくらい勤めたのですか。

近藤:3年くらいです。最初に担当させてもらったのは「西所沢の住宅」です。それから、いくつか住宅を担当しました。

 

-その後は、すぐ独立されたのでしょうか。

近藤:新潟の実家が建設会社なので、いつかは実家を継ぐつもりでした。そのため、佐藤光彦建築設計事務所で最後に担当した現場の施工会社で3年間働いて、現場のことをいろいろ勉強しました。その後、これで実家に帰っても大丈夫かな、と施工会社を辞めたこ ろ、たまたま小さな住宅の設計を何軒か頼まれ、ひとりで事務所を構えて設計をしていました。そのころに、今、事務所を一緒にやっている瀬戸健似から声をかけられたんです。 瀬戸は、同じ新潟県五泉市の出身で、中学から高校まで同級生。大学は、日本大学生産工学部建築工学科の出身で、卒業後には組織設計事務所で働いていました。ほとんど同じ道を歩んでいる彼が、独立して「コンペを一 緒にやろう」と持ってきた話が、「ゆいま~る那須」というサービス付き高齢者向け住宅のコンペでした。そのコンペが取れたことをきっかけに、彼と事務所をはじめました。それから10年くらいが経ちました。

「ゆいま~る那須」(Photo =新澤一平)

 

はじめての子どものための施設

-受賞された「めぐみ会第一仏光こども園新園舎」は、近藤さんにとってどのような作品でしょうか。

近藤:「ゆいま~る那須」をはじめてから、サー ビス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームな ど、高齢者向けの施設の設計が続いていたのですが、今回受賞した「めぐみ会第一仏光こども園新園舎」は、はじめての子ども向けの施設です。

高齢者向けの施設の運営は、「社会福祉法人」という、高齢者に限らず、社会的なケアが必要な人たちへの事業を行っているところが多く、その対象には子どもや子育て家庭も含まれます。今回は、「めぐみ会」という社会福祉法人からお話をいただいて、はじめて子ども向けの施設を設計することになりました。保育園やこども園については、設計経験が無かったので、まずはゼロから勉強をはじめました。

 

-はじめて設計するときに戸惑いはありましたか。

近藤:戸惑いはなかったと思います。これは、高齢者向け住宅をいくつか設計していく中で 気付いたのですが、設計においては、そのビルディングタイプに慣れていくと、既成概念に自分が縛られてしまうと思うんです。たとえば、最初に設計をした高齢者住宅の 「ゆいま~る那須」は、最初だからこそのアイデアが出ていたと思います。敷地内は坂道だらけ、すべての住戸が分棟で、食堂に行くにも屋根の無い外部を歩かないといけない。今回の「めぐみ会第一仏光こども園新園舎」も、こども園や保育園に先入観が無いからこそ、「子どものための施設って面白そうだな」という想いを持ちながら、設計に取り組むことができました。

 

-新園舎と畑を挟んで既存園舎があるのですね。

近藤:現在も使用している既存園舎の敷地に対し、畑を挟んで、今回の新園舎があります。 お施主さんも僕らと同じ世代で、既成概念にとらわれることなく、いろいろなことにチャレンジしてくれました。もし何十年もやってい人であれば、園児の安全や、スタッフが使いづらくないかと気にかける部分もあると思うのですが、今回は、「園児第一の楽しそうな場をつくりましょう」という大きなコンセプトを、 お施主さんと共有してから設計をはじめることができました。それによって僕らも、設計者として楽しく取り組むことができたと思います。

 

-細長い敷地が特徴的です。設計するときは苦労されたんじゃないですか。

近藤:この特徴を有効利用しよう、という感じでした。

 

-配置をしていくときは、どのように決めていったのでしょうか。

近藤:将来的には畑の部分をつなぎ、旧園舎と新園舎を一体にしたいという構想もあった ので、ゾーニング的には、園庭や園舎を畑側に持っていきました。また、地方のこども園なので、駐車場もそれなりに必要なんですよね。だから、前面道路に対しては、駐車場も意識しました。

「第一仏光子こども園」配置図兼1階平面図

 

-間口が18メートルで、奥行きが100メートル以上、建物自体の長さが75メートル。かなり特徴的ですね。ここに園庭を囲むように新しい園舎の保育室と多目的ホールが並んで、 園庭が既存園舎の前庭に向き合うような形で設計をしたということですね。子どもたちは何人くらい入るのでしょうか。

近藤:0~3歳児は旧園舎、4~5歳児は新園舎。全体で定員170人です。

 

-外装は、全体的にウッドシングルという、木の板張りになってます。素材の選択や、デザインの意図はどういったものなのでしょうか。

近藤:まず、事務所のスタンスとして、無理なく木造でできるならば木造で、というのがあります。これまでの経験から、この規模ならば木造で十分可能です。また、敷地は兵庫県たつの市で、 近くに播磨という有名な木材の産地があります。 しかし、敷地の近隣には、 そういった木材の地産地消をしているような 建物は見当たらない。外装まで木にして「そういったものを前面にアピールするような建 物にしませんか」とお施主さんに提案しました。 実際には、外装には耐久性の問題もあって地場産材は使えていないんですが、 やってみようということになりました。

 

-構造も仕上げも、目に入ってくるところのほとんどは、木製の素材を使っていますよね。

近藤:屋根以外は木です。 構造設計は、大学の先輩だった、オーノJAPANの大野博史さんにお願いしました。

 

-近藤先生、瀬戸さん、大野さんと、日大出身者が多く関わった建築なのですね。そのように、木を使うことの子どもたちへの効果を狙ったりしているのですか。

近藤:もちろん、子どもへの影響もあると思っていますし、 働いているスタッフヘの影響や、ホールはときどき地域開放もしているので、地域の方たちへも、気持ちの良い空間がつくれているのではないかと思います。

 

-この多目的ホールは、地域の方も使えるのですね。

近藤:はい。 だから、なるべく敷地の手前のほうにホールを持ってきています。

「第一仏光こども園」の園庭から多目的ホールを見る(Photo=新澤一平)

 

「第一仏光こども園」外観(Photo=新澤一平)

 

-駐車場や事務所に近いところにホールを置いて、保育室は別棟になっているんですね。プランを見ていると、内部空間と外部空間が交互に入ってくるようで、空間が混ざるような、室内にいても外が感じられるような空間になっていることがすこく印象的です。

近藤:ひとかたまりの大きな空間に園児がいるというよりは、 なんとなく最初からいろんな場所をつくってあげることで、 子どもたちが好きな場所を選べるようにしたいと考えていました。だから、ボリュームも機能別でいくつかに分け、隙間にもいろんな遊び場があります。ボリュームによって天井が高いところがあったリ、低いところがあったり。壁の仕上げも、普通の板張りがあったり、でこぼこしていたり。同じ木の空間なんですけれど、多様な場所があって、子どもたちが自分で過ごす場所を見つけられるようなことをイメージして、設計しています。

「第一仏光こども園」内観(Photo=山田黛)

 

-近藤先生たちの作品は、そういう風に、大きいものをどーんとつくるよりは、小さいものを組み合わせたようなものが多い印象がしています。そういう部分は意識されていますか。

近藤:そういう面もあるかもしれません。 気付くと、いくつかのボリュームになっていることが多いです。

 

-ひとつのプログラムを、小さなものに砕いてから設計をして、あえて余白のようなものをつくっているのかな、という印象を持っています。

近藤:ある程度の規模の木造になると、区画や消防設備が必要になったりするので、 他の物件でもそういったことを考慮し、分節したボリュームになっているものもあります。

 

最初の強いコンセプトを何度も振り返る

-設計をするときに、近藤先生として、こういうスタンスでいきたいなとか、ここだけはこだ わリたいなとか、そういう部分はありますか。

近藤:僕らはまだ、依頼されたプロジェクトを、その都度、ゼロからスタートさせています。なにか型みたいなものがあるわけではなく、逆に、それをずっと探している段階であるとも言えるかもしれません。

 

-学生たちが課題に取り組むときもそうだと思うのですが、周りの建築家からどういう風に思われるかとか、どう差別化をするかとか、そういうようなことを考えたりすると思うんです。

近藤:設計のプロジェクトなので、当然、やっていく中で、 与条件や施主の条件が変わっていくと思うんです。だけど、最初に設定した強いコンセプトのようなものは崩しちゃいけない、ということは、瀬戸と僕との共通意識として持っています。それ以外は、無理にこだわっても仕方がないところもある。そのため、最初に提示したコンセプトを、お施主さんも、施工者も、周りの人も含めて、みんなでいかに最後まで共有できるか、というところに一番力を注いでいるような気はします。プロジェクトをやっている途中でも、「最初に何をした かったんだっけ」と思い返して、 関係者みんなでこだわりを共有することは大切ですね。 そこをみんなに理解してもらえると、お互いが協力しやすくなる。理解してもらえないと、こだわりに対して「なんで?」という気持ちが生まれてしまう。 結局、 設計者にとって大事なことは、デザインするとか、図面を引くとかじゃ なくて、コンセプトをいかにみんなに伝えられるかだと思うんです。

 

-「ゆいま~る那須」はコンぺですよね。独立してすぐにコンペを取っているかどうか、というのは大きいんじゃないかと思うんです。 コンペを取ると、「最初のコンセプトを貫く」という意識が強くなると思うんです。 それから、いかに案を相手に伝えるかという部分や、いかに案に相手を巻き込むか、ということに対する意識も違いますよね。 そこは、建築家にとっては重要だと思います。

近藤:そうですね。コンペでないとできないことってありますね。

 

2年生の設計指導を通じて

-2年前期の「建築設計II」では、今年から「園児のための遊び場・学び舎」という課題がはじまりました。 近藤先生にも指導していただいていましたが、いかがでしたか。

近藤:ひとつ前の課題「住宅」は、誰でも自分の体験に基づくことができる、とっかかりがある程度はある課題でしたが、 保育園や幼稚園は、経験はしているけれど、記憶に無いところだと思います。 また、そこで働いている保育士の方がどう働いているかなんて、当然わからない。 地域とどう関わっているのかもわからない。 そういう部分をイメージするのは難しい課題なんじゃないかと、最初は思っていました。というのも、僕らが設計するときもそうだったので。ただ、僕らはたまたま、ちょうど保育園に自分の子どもを預けているころだったんです。そのため、一日の流れやオペ レーション、どういったところで遊ぶのか、子どもの身体能力がどのくらいか、 といったところが想像できました。すごく良いタイミングのプロジェクトで、だからお施主さんとも通じ合えたという部分もありました。 だから、これを学生たちがやるとなると、 かなり想像力を働かせないといけないから難しいんじゃないかなって思ったんです。 けれども、実際やってみると、どういう生活をするかは、なんとなくわかっているような感じがして、もしかしたら 学生たちには、子どものころの記憶がまだ残っているのではないかと感じました。 あまり既成概念が無く、自由に設計をしているなと思いました。 一方で、地域を結び付けるという部分には、苦戦していたように感じます。 地域とのコミュニケーションというのが何なのかというのは、 自分が学生のときもわからなかったし、その辺は、ある程度社会に出てみないとわからな いことなのかもしれません。でも、実はそう いうところを考えることが、 一番面白いはずな んです。 そういう意味で、実は難しい課題だったと思っています。 設計するのは簡単だけど、いわゆる課題として、解答を提示するのは、ちょっと難易度が高かったのかな、という気もします。

 

-周りの環境とか都市との関係という意味では、確かに難しかったのかもしれません。ただ、自由に設計していたという面では、学生たちには既成概念が無く、ユーザーとしての記憶と、そこから広がるイマジネーションから、自分達のものとして設計に取り組めたと思います。

ご自身の建築が 「新建築」に紹介されたタイミングで、同じビルディングタイプの課題を学生に指導するということはいかがでしたか。

近藤:実は、現在も、同じお施主さんで、同じビルディングタイプの設計を手がけているんです。 そこで自分たちがやリたかったアイデアが学生から提案されたりすると面白いな、というのはありました。また、自分の設計にあたって、類似事例を調査していたり、 アンテナを張っていたので、僕からもいろんな引き 出しを提示できていたのかもしれません。

 

社会とのつながりを意識しながら取り組む

-最後に、学生たちに向けて、先輩として一言お願いします。

近藤:僕は、自分が学生のころ、高宮先生から「建築の設計が社会にどう関わるのか」ということをずっと問われていたんです。 でも、学生のころって、なかなかピンと来ていなくて、わかっている振りをしていたんです。けれども、実社会に出て、設計をはじめて、いろんなお施主さんや地域に関わっていると、その問いがすごく大事なことだったと身にしみてわかるんです。 将来、設計以外の建築の仕事に就くとして も、建築以外の道に進むとしても、もちろん設計の道に進むとしても、仕事をすることは、自分の考えが、 社会にすごく影響を与えることだと思います。 設計の課題で学んだことや、設計の課題で自分の提案が社会にどう関わるのかと考えたことは、将来、すごく役に立つと思います。 設計の課題に真摯に取り組むということは、社会にとっても、自分にとっても、重要だったと思うので、学生の皆さんにはぜひ、そういう視点を持ちながら、課題に取り組んでほしいと思います。今にして思えば、僕も、もっと真剣に取り組んでおけば良かったと思うくらい です。

 

-もちろん、学生たちにとって、社会との関わりや地域との結び付きというのは、なかなか実感がわきにくいけれど、どこかでイマジネーションを働かせて、彼らなりに想像できる範囲の中で、社会とは何か、自分の提案が社会にどのような影響を与えるか、ということを意識することは重要かもしれませんね。

 

こんどう・そうじゅん

1998年、日本大学理工学部建築学科卒業。2000年、同大学院理工学研究科博土前期課程建築学専攻修了。2000~02年、佐藤光彦建築設計事務所。 2003~06年、日祥工業。2006年、近藤創順建築設計事務所設立。2010年、プラスニューオフィス共同設立。主な作品に「ゆいま~る那須」「KEYAKI PLACE」「桜美林ガーデンヒルズ」「第一仏光こども園」ほか。主な受賞に、栃木県マロニエ建築奨励賞、東京建築賞共同住宅部門最優秀賞、日事連建築賞一般部門優、BELCA賞ベストリフォ ーム部門、グッドデザイン賞特別賞グッドフォーカス賞、日本建築学会作品選奨。

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