研究紹介
木質構造デザイン研究室の廣石秀造先生が考える“建築の面白さ”
by SHUNKEN編集部

材を組み合わせて架構が作られる。木質構造建物の屋根架構。

構造設計≠地震に対する安全性の確認

建築の設計は,建物の造形や空間の使い方などを形にしていく「建築設計」のほかに,「構造設計」や「設備設計」などがあります。このうち,構造設計は,建築設計の計画案に対して,建物の架構(例えば,柱や梁など)の構成を工学的知見に基づいて考える分野です。構造設計では,地震等の自然災害に対する安全性の確保が至上命題となりますが,このほかにコスト(経済性)や作りやすさ(施工性)なども考慮します。また,架構の形状は,建築の造形性や使い勝手に影響することも多く,建築設計のイメージをいかにして具現化していくかが,構造設計の際には重要な視点のひとつとなります。

木材の特徴を踏まえて2つの視点から架構を考える

ここで,私が専門とする「木質構造(木造)」は,自然由来の「木材」を主な材料として建物を構成したものを指します。木材は,材料の観点から見ると,軽く,柔らかくて加工しやすい(言い換えると,めり込みや変形を生じやすい),材の繊維の向きによって強さ・硬さが異なる,乾燥収縮・湿潤膨張,性能にばらつきが大きい,などの特徴を有します。また,木材は,切る,削る,孔をあけるなど,材を「引いて」架構を組み立てていきます。鉄骨や鉄筋コンクリートのように,材そのものを「足して」形を変えることが難しい材料です。このため,木質構造では材同士の完全な一体化が困難であり,また引き算するほど材が小さくなり,硬さと強さへの影響が大きくなります。
さて,このような特徴を有する木質構造の構造設計では,建物全体の力の流し方(地震等で発生する力に抵抗する架構形状)というマクロの視点と,材同士の接合方法といったミクロの視点が必要です。マクロ視点では建築設計が求める要件を満足しながら,建物全体の安全性を確保するための材の組み合わせ方を考えます。一方で,ミクロ視点では,木材特有の割れやめり込み,力の向きと繊維の向きの関係などを考慮しながら,材同士をつなぐ方法を考えます。このマクロとミクロの2つの視点を行き来しながら,架構のつくり方を決定していきます。難しく聞こえるかもしれませんが,パズルを解くようで,とても面白いです。(ちなみに私の研究分野は,ミクロ(接合方法)や,ミクロとマクロの関係性などが対象です。)
また,木質構造の建物を見たとき,このマクロとミクロがどのように構成されているか,非常に気になります。細部まできれいに納まった架構を見たときや,木材の特徴を活かした構成がなされていたときなどには,思わず感嘆の声が出ます。
構造設計の観点から建築物を観察すると,建築の新たな世界で見えてきます。だから建築は面白い。

木材と他素材の接合。施工のために可動性を備える。可動と安定の両立が難しい。

【関連ページ】
・研究室:木質構造デザイン研究室

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