受賞者インタビュー
「高性能コンクリートの調合設計・品質管理のための骨材影響に着目した品質評価に関する一連の研究」
by SHUNKEN編集部

インタビューを受ける渡邉先生

インタビューイー=渡邉悟士[准教授]
インタビュアー=泉山塁威[准教授]、鴛海昂[助手]

 

生産・施工研究室の渡邉悟士准教授が、2025年日本建築学会賞(論文)を受賞しました。

日本建築学会賞は、会員により近年中に発表された学術の進歩に寄与する優れた論文等の業績を評価するものです。

本論文の成果は、建物の計画・設計、コンクリートの調合設計・製造・施工、建物の維持保全といった広い段階で実務展開されており、今後も災害に強くレジリエントな建物、働き方・住まい方の多様化、豊かな住生活を可能にする都市・建築空間、建設現場の生産性向上、持続可能な社会の実現に向けた建物の長期供用・維持保全などの社会課題対応への貢献が期待できると考えられ、工学的価値と実用的価値を兼ね備えている点が高く評価されました。

企業で技術研究者として研究を続けてきた渡邉先生に、大学という研究教育機関での今後の展望と研究への取り組み方についてお話を伺いました。

 

コンクリートの品質管理とは

渡邉:
コンクリート=セメントっていうイメージないですか?

鴛海:
一般の方はあるかもしれませんね。

渡邉:
そうですよね。でも一般のコンクリートの中のセメントの割合って1割しかないんです。だから、コンクリート=セメントっていう認識は間違い。実際はセメントが1割、水とか空気が2割、残りの7割は石とか砂なんです。
かき揚げで例えると、具材が石とか砂で、それを繋いでるとろっとした小麦粉のペースト部分が水とセメントが混ざったセメントペーストです。
しかしこのセメントペーストは固まるときや固まった後に縮むんですよね。コンクリートがひび割れるという現象はこのセメントペーストが影響しているので、実はセメントペーストが多いコンクリートはあまり良くないです。ただ、石と砂だけでは固めることはできないので、隙間をペーストで埋めていかないといけません。

泉山:
すごくわかりやすいです。

渡邉:
つまり、この石とか砂(骨材と呼ぶ)がコンクリートの品質に与える影響ってとても大きいんです。ただ、例えば骨材の圧縮強度なんてどうやって測るんだろうと思いますよね。普通は、コンクリートを円柱に固めて上からぐっと押すような試験をやるんですけど、石とか特に砂では無理でしょう。
ただ、石の強度は一般のコンクリートの約3〜5倍以上あるので、実は石が多少悪くてもコンクリート自体の弱点にはならない、、はずでした。

鴛海:
高強度コンクリートを作り始めたことでその考え方が変化したのですね。

渡邉:
その通りです。これまでは、セメントペーストでコンクリートの強度が決まっていたので、その管理をしっかり行えば良いという管理方法でした。しかし、高強度コンクリートは全体を強くするために、骨材同士をくっつける接着剤であるセメントペーストをどんどん強くしていったので、ペーストの強度が石を追い越してしまう部分が出てきたのです。
そうすると、その骨材の強度管理が必要になりますよね。実は密度などで比較的簡易に評価できる方法が実際に運用されていますが、それでは立ち行かなくなる部分がでてきました。

鴛海:
超高強度コンクリートのような特殊なコンクリートの生産技術が向上してきたからこそ、より重要性が高まった研究ということですね。

 

研究成果の実用的な展開について

研究概要

泉山:
超高強度コンクリートを作るための高品質な骨材(石や砂)を選別する方法とは具体的にどのようなものですか?

渡邉:
元々の試験方法だと山にある採石場で採取された原石を大きな機械で砕いて骨材を製造し、それを生コン工場などに運んでからやっと試験ができていたんですね。ただ、それだと工場に搬入する前まではまだ試験自体が行われていないというのが実情です。先程述べたように骨材は一般のコンクリートに対しては十分に強いので、密度などでの比較的簡易な試験方法で判定がNGになることは基本的にありません。そのため、工場に搬入されてからの試験でも実質的には問題はありませんでした。一方、超高強度コンクリートのための高品質な骨材の選別試験では判定でNGがでることもあります。そうなると、何百トンという量で工場に搬入された骨材を廃棄するのかという問題が生じます。そうならないように、原石を砕いて骨材が製造・出荷されるまでの2日程度の間に、原石からくり抜いた直径5cm高さ10cm程度の円柱状の検体で試験をして、工場に搬入される手前で判定できる方法を考えました。

泉山:
なるほど。生コン工場にとっては、搬入の前に検査ができたほうがいいですもんね。

渡邉:
そうですね。これが私の研究で1番大きな割合を占めるものでした。次は鋼繊維補強コンクリートで、文字通り繊維状の鋼材が混ざっているため、その分鉄筋を減らして柱が作れます。これは最後まで研究を終えずに退職してしまいましたね。御茶ノ水ソラシティに鋼繊維補強コンクリートで造られた細柱があります。直径40cmくらいの柱です。

鴛海:
非・微破壊試験についてはいかがですか?原子力発電所などのコンクリート性能検査に活用できるとお伺いしました。

渡邉:
建物のコンクリートの強度を直接確認するためには、直径10cm高さ20cm程度の円柱状の検体をくり抜いて破壊試験を行う必要がありますが、これは建物に少なからず損傷を与えることになります。このような損傷をともなわない非・微破壊試験の一つとして、超音波がコンクリート中を伝わる音速でコンクリートの強度を評価する方法が提案されています。音速は伝わった距離を時間で割って求めますが、コンクリートの表面からの乾燥などの影響で超音波が伝わる経路はまっすぐではなくなることなどから、伝わった距離やそれをもとに計算される音速が正確に測定されないといった課題がありました。それに対して、私が提案したこの試験方法だと2~3cm程度の穴を2箇所あけておくことで、乾燥の影響を受けにくいコンクリートの内部で従来の試験より高精度の検査が行えます。あけた穴はそこから乾燥しないように蓋をしておけば何度も測定に使えるため、さらに10年後20年後にもコンクリートの強度が問題ないかどうかということを検討するのに、非常に有効だと考えています。

 

超高強度コンクリートができること

適用事例(コンクリート工学会,49巻,8号,pp.37-42,2011より引用)

鴛海:
ちなみに超高強度コンクリートのほうがコスト的には高いんでしょうか。

渡邉:
そうですね。強度に比例してと言いたいところですが、それよりも少しコストは高くなります。ただし、柱の断面積を小さくしても、前と同じだけの重さを支えられるので、例えばこれまで2m×2mで作っていた柱を1m×1mに縮小できればコンクリートの使用量は1/4で済み、コンクリートのコストはそれほど大きくは変わらないのに対して、使える空間は広くなるのでメリットは大きいですよね。

泉山:
それこそ超高層ビルとかに使うのが一般的でしょうか。

渡邉:
はい、基本的に超高層で使うのが中心です。御茶ノ水ソラシティのような細柱とかを作って空間がすっと抜けるようにという場合もありますが、ほぼ超高層の足元部分にだけ使うことが多いです。ビルの上階の強度はそこまで高くなくていいので、足元だけ頑張ってもらうという形ですね。

泉山:
でも日本の超高層って海外に比べてそんなに劇的に高くなってないですよね?

渡邉:
現状ではだいたい高さ300mくらいでしょうか。ただし、例えば横浜ランドマークタワーは鉄骨造との組み合わせですし、そのクラスの建物では純粋に鉄筋コンクリート造のみで作られるという感じではないですね。
オフィスや商業施設ならいいかもしれないですが、高層マンションを鉄骨造でとなると風などによる揺れの観点からあまり好ましくない。そのため、高さは150mくらいにとどまりますが、鉄筋コンクリート造でとなると、柱も細くできるし、スパンも飛ばせるというメリットがあるのでやはり超高強度コンクリートの需要が高まっているのだと思います。

泉山:
確かに最近竣工した麻布台ヒルズなどは、これまでの高層ビル空間に比べて空間がすっきりして広く感じます。

 

研究に必要なのは知識よりも「考え方」

鴛海:
ちなみに大学時代の専攻は何でしたか?

渡邉:
実は材料施工という括りの研究室にはいたのですが、れんが造の構造について研究をしていました。通常、れんが造というと、れんがを積んでその隙間をモルタルで埋めていきます。ただ、それでは地震に弱いため、じゃあ地震に強いれんが造を作ろうということを研究していました。具体的にはれんがをボルトで締め付けながら積むという方法ですが、容易に解体可能でリユースできる施工方法ということで、環境配慮の観点からもアピール性のある技術と考えていました。

鴛海:
ではコンクリートに関しては特に研究として触れてこなかったのに、企業で2年目にして論文を書けたということですか?

渡邉:
実はそうなんです。ただ、学生にも良く言っていますが、研究で重要なのは専門知識だけではなくて、その研究を進めるための考え方が重要で、そういう考え方を学ぶための卒業研究と教えています。

鴛海:
ちなみにどういう考え方が必要だと思いますか。

渡邉:
そうですね、よく言っているのは「目的」をしっかり持つことでしょうか。研究でありがちなのが、データを得ること自体を目的にしてしまうことですが、目的はもっと大もとにありますよね。この研究はなんで必要なのか、社会にとってそれが本当に求められているのかという部分です。
もちろん卒業研究なので、本当はそんなにガチガチに求めなくてもいいし、失敗してもいいと思います。ただ、重要なのは、色々なことを調べて、本当にそれをやる意味があるのか突き詰めているかという点です。
それをしっかり突き詰めていれば、手法もそれにくっついてくると思いますし、目的をしっかり持ち、力強く実行していく。実はそれってどんな仕事にも通ずることだと思います。
多分この研究室の卒業生は、ゼネコンの現場にでる人がそれなりに多いでしょう。現場で上司から、これを職人さんたちに伝えて実行してもらいなさいと指示をもらいますよね。それをただ単純に伝達すると、職人さんも面倒なことはやりたくないですし、なんでそれをしなきゃいけないのか、明確に説明できないと動いてくれません。ここで指示する側が、明確なビジョンを持っていないといけないんです。研究も同じです。

 

論文を書こうと思ったきっかけ

渡邉:
実は、企業は自社でお金を出して研究したものを論文として発表することをそこまで重要視していません。他社に情報が知られてしまいますからね。
ただ、私は研究者として論文を出したいなということも思いましたし、査読論文といって、第三者の専門家1〜3名ほどが読んで評価をしてくれる機会が非常に大切だと感じていました。会社の中だけだと、同じようなことを考えている人ばかりなので、意見も偏ってきてしまうのですが、査読してもらうと違う立場の方々が色々な角度から意見をくれるので、どんどんバージョンアップできるんですよね。
また、開発した技術を適用する際にはお客さんも大丈夫かなと思うところがあると思いますので、その開発段階での論文が第三者に査読という形で審査されているというのは、お客さんに提案する立場の企業にとってもメリットだと思います。

鴛海:
ちょうど大学にうつるタイミングでの受賞となりましたね。

渡邉:
本当に偶然ですね。元々は賞を狙おうとか考えておらず、上司の薦めで書き続けていました。私の入社年に研究所に新卒採用されたのは私1人でしたが、その上司の代は10名ほど採用されて、私より10年上くらいですが、やはりバブル崩壊後の建設業界が厳しくなった時期に、研究所採用された人でも現場に異動となることがあったそうなんです。研究所は直接的にお金を稼ぐ部署じゃないですからね。
その上司はたまたま運良くまた研究所に戻ってこれましたが、やはり研究成果がきちんと残せていないと、研究者として独り立ちはできないと強く感じたそうです。おかげで私も論文を書き続けようと決めて今まで取り組んできました。

 

今後の展望

鴛海:
今後、企業から離れてコンクリートの研究や施工方法など、新しい分野の開拓をしながら大学で教鞭を取られると思うのですが、その点について展望があればお伺いしたいです。

渡邉:
企業の良さも当然ありましたが、◯◯会社の渡邉ではなく、渡邉がいる◯◯という感覚でやっていきたいなと思っていました。そのために、さまざまな業務に主体的に取り組み、専門家としての知識を培ってきたと自負しています。企業だとどうしても利益をあげることや、他社との競争で純粋にコンクリートの専門家として知見を発揮することの難しさも感じるようになりました。これまで自分で培ってきた知識を業界に還元していくために大学という場に身を置いてやってみようと思っています。

鴛海:
高校生のみなさんもですが、今研究室に所属する目の前の学生さん達に心がけてほしいことってありますか。

渡邉:
やはり社会にでていくために、最低限の責任や、自分に対してのノルマみたいなものを持つことがいいかなと思います。それを研究の中で鍛えていくんじゃないかな。
あとは少し視点は異なりますが、いわゆる地図に残る仕事といわれる建築業界に魅力を感じて、私はゼネコンの研究所に行きましたが、非常に門戸が狭いのが現実です。自分の能力の良し悪しだけではなく、毎年募集があるわけではないので、本当に運がよくないと難しいでしょう。ただ、ちょっと就職先の条件を広げると材料メーカーの研究職とかもあったりします。今回ご紹介した研究は私が主となって進めてきたものですが、コンクリートという材料を作るにはそのような材料メーカーの方々も含めて本当に色々な方が関わっています。
このように、社会人になっても研究に関わることはできるので、もし研究職に興味がある方はぜひ建設業界に限らず広い視野で研究ができる環境を探してみてほしいです。

 

【関連ページ】
・日本建築学会:2025年各賞受賞者
・研究室:生産・施工研究室
・教員:渡邉 悟士

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